明治以前は、鉄砲に使う鉛の弾を、
猟師自身が溶かして作っていたという。


夜なべ仕事に炭火で鉛を溶かし、
底の丸い鉄鍋で弾を丸める作業を続けていると、
不思議なことに家の年老いた猫が、
コクリ、コクリと首を振る。

猟師はさして気にもとめず、
夜が更けるまで次の猟に使う弾を作り続けた。
翌日。

山にうっすらと雪が積もり始めたその日は、
師走とはいえまれに見る不猟の一日で、
黄昏時が迫ろうというのに山鳥の一羽も姿を見せない。

さすがの猟師もとうとう諦め、
山を下りることにした。

日は暮れ、
雪明かりでようやく道が見える時分に、
猟師は山の出口にさしかかった。

と、その時、
林の中に二つの光りが見えた。

すぐに獣の目と知れたが、
その輝きが尋常ではない。




猟師はすぐに鉄砲を構え、
頭とおぼしき位置を撃ち抜くが、
一瞬瞳が隠れると同時に、
弾は金属音をたててはじき返された。

事態の飲み込めぬ猟師は、
弾を込め続けざまに撃つが、
皆同じように弾かれる。

とうとう前日に作った弾を全て撃ち尽くしてしまうと、
それが分かるのか、瞳がゆっくりと近づいてきた。

猟師達は昔からの習いで、いざという時の為、
たった一発だけ余分の隠し弾を常に持っている。

猟師は隠し弾を鉄砲に込めると、
これが最後と覚悟を決めて引き金を引いた。

最後の弾は見事に当たり、
すさまじい悲鳴と共に影が倒れ込んだ。

勇んで猟師が駆け寄ると、
なんとそこには年老いた飼い猫が、
額を撃ち抜かれて死んでいた。

横には玉を作る鉄鍋が落ちており、
これをかぶって鉄砲を防いだものと知れた。

前の日、この猫がしきりと頷いていたのは、
玉の数を数えていたのであろう。

畜生は長ずると化けて、
人に害を及ぼす。

この猟師の村ではそれ以降、
畜生の見ている前で玉を作ることはなくなった。