俺が子供の頃、
母方の祖父が養鶏場をやっていた。
祖父が死んで今は人手に渡ってしまったが、
まだ祖父が元気だったころ、
夏休みのたびに遊びに行っていた。
どういう経緯だったか前後がはっきりしないのだが、
俺が手に卵を持っていて、そして祖父がこう言った。
「それは神様だから渡しなさい」
祖父に卵を手渡すとき、
「ギョロ」という、音というか、
気配のようなものが卵の中で動いて、
それに驚いた俺は落としてしまった。
割れた卵から真っ黒い毛のようなものが見えて、
それを祖父はすぐに踏みつけた。
嫌な音がした。
俺はその出来事を気にしていたらしく、
その次か、次の次の夏あたりに祖父が教えてくれた。
この養鶏場があるあたりは、
むかし沼がちだった土地で、
なにかの神様を祭る社があったらしい。
祖父の先代が土地を買い取った時に、
その社を裏の山に移した。
それ以来、
ごくまれに無精卵の中に奇妙なものが混ざり始めたそうだ。
それはどういうものなのか、
祖父は教えてくれなかったが、
『神様』なのだと言う。
俺はそれを聞いて、
やたら怖くなって体が震えた。
今にして思うと、
『それは神様で、そして殺す』
という文法が怖かったのだと思う。
『悪霊だから、殺す』
と言われれば、
納得したかもしれないのに。
祖父の葬式の日、
出棺の最中に鋭い笛の音が響いた。
まわりにいた全員が耳を塞いで騒然となったけど、
俺はなぜか心のつかえが取れたような気がした。
説明できないが、納得した。
ごめん。わけわかんないな。
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