昔、中学の校外学習で京都に行った

清水寺の近くに三年坂という坂があり、
「三年坂で転ぶと三年で死ぬという伝説」がある

「坂の上の清水にある子安観音に「お産が寧か(やすらか)でありますように」と祈願するために通る坂」
であることから、
安産祈願の妊婦が転ばないようにと注意を促す話だとガイドから聞いていた


三年坂は石畳で作られていて、
雨なら滑るかもしれないなと思った記憶がある

秋晴れの、少し肌寒い日、友人はこの坂で転んだ


私を含め同じクラスの子はみんな

「ちょっ?!ヤバイんじゃない?!」

と言いながら友人に手を貸して立ち上がらせた

そんな迷信を、
転んだ本人も含め誰も信じていなくて、
彼女は

「三年坂で転んだ私」

とその後も完全にネタにさえしていたくらいだった

清水寺について、
彼女はバスガイドさんにも

「転んじゃった。私、死ぬかもー」

と笑って話していた

翌日、バスガイドさんから
彼女は御守りにと瓢箪のストラップをもらっていた

「転んでしまっても、
この瓢箪には厄よけの効果があるそうだから、大丈夫よ」

と本人は気にしていなかったから、
翌日になってまで御守りを渡されたことに

「そこまで気にしてないんだけど…」

ビックリしつつも、
ありがたく受け取っていた

しかしぶっちゃけ可愛いものじゃない

だからか、カバンの中に入れたままで、
それを袋から出して何かにつけたりはしなかった

修学旅行から帰って、

「三年坂で本当に転ぶ人がいるなんて」

としばらくはネタにされていた

「ところであの瓢箪どうしたの?」

グループの誰かが聞くと、
彼女はパッケージに入ったままの瓢箪をカバンから取り出した

「一応、持ってるよ!」

そう言ってパッケージから瓢箪を取り出して、
みんなにそれを回して見せてくれた

瓢箪は蓋がついていて、
中に6つの小さな瓢箪と、
小判やら鯛やら破魔矢みたいなのが入っていた

4月になり、
私たちは付属の高校へ進んだ

私とはクラスは別になってしまったけど、
高校から入学してきた子に、
彼女は瓢箪を見せながら
ネタ的にあの話をして笑いをとっていたそうだ

「可愛いね!
中にもちっちゃい瓢箪が4つ入ってるんだね♪」

彼女はその時見せていた子からそう言われて、
初めて瓢箪の異変に気がついたらしい

「あれ、絶対6つあったよ!」

その日、
あの時一緒に行動していた仲のいい友人数人で集まって
中身を確認した

カラフルな6つの瓢箪のうち、
赤とピンクがないことに気づいた

色が似てるから、
もっと違う色のほうが可愛いのにね
と話していたから間違いない

他にも金色の破魔矢もないことに気付いた

カバンの中もよく見たけど、
カバンの中には落ちていなかった

いつからないのかも、
なくした場所すらわからなかったけど、
彼女は気にするわけでもなく

「まぁ、でも所詮迷信だし。
ないからどうなるわけでもないからいいよ。
見つかればラッキー!くらいだわ」

そう笑った

秋を迎えたある日、
彼女はあの校外学習があった同じ月に死んでしまった

金曜日の放課後、
駅から自転車で家に帰る途中で事故に遭ったそうだ

お通夜の時に彼女の顔を見たら、
顔だけは寝ているみたいに綺麗だった

葬儀も過ぎて、
いよいよ納骨される四十九日の前に、
私たちは最期のお別れがしたくて彼女の家を訪問した

祭壇には遺影とお骨、お花や果物が供えてあったが、
あの時持っていたであろう通学カバンや
折れた携帯電話などが置いてあった

カバンは轢かれなかったのか、
特にボロボロになっている様子はなかった

「カバン…見てもいいですか?」

と友人が許可を取り、
中を見始めた

中身はその時のままなのよとお母さんが話してくれた

友人の手が止まり、
半泣きで私たち全員の顔を見始めた

カバンから出した手は、
蓋と紐だけになった瓢箪ストラップが摘んでいた

瓢箪がなくなったことと、
亡くなった因果関係はわからない

でも彼女のお母さんはそれを見てこう言った

「あら、瓢箪いつなくなったのかしら…
事故の1週間前くらいには多分あったと思うけど、
事故で落としちゃったのかしらね」


迷信かもしれない

迷信じゃないかもしれない

けれど彼女が亡くなったのは事実です

京都の三年坂を通るかたは、
くれぐれも転ばないように足元にご注意ください