オレが友人と酒を飲みながらテレビを見ていると、殺人で捕まったという人相の悪い男が映し出された。

事件現場の山中をバックにして、微かに頬に傷のある男の写真が画面の右上に映し出される。キャスターは、他にも余罪がある可能性があるといっている。

友人はその事件現場の山の映像を見ながら、子供の頃の思い出話を呂律の回らない口で話してくれた。以下は友人の話だ。


俺は仲間と”虫採り少年”という悪戯を計画していた。それは、数人で全く同じ格好をして、観光客が山道を車で登って来る時に前を横切ると言う物だ。

同じ格好の少年が何度も横切るという事で、観光客は幽霊を見たと誤認するはずだった。確かどこかでその話を聞いたと思うのだが、何しろマイナーな話なので出所は思い出せない。

始めは面倒くさい・ばれたら怒られる、等の反対意見もあったのだが、夏休みで暇と言う事もあったし、何しろばれても、\"虫採りに来ていただけ”という言い訳ができると言うと、現金な事に次第に皆乗り気になり二・三日で実行日まで決定した。しかし、どういう訳か友達の一人は最後までこの計画には乗り気ではなく、『悪戯は良いけど、場所を代えないか?』等と言っている。

 


勿論、そんな気は俺達には全くなかったし、『嫌なら降りろ』と言って黙らせた。この時、もう少しこいつの言い分を聞いておくべきだったと思うときがある。

俺らは早速、同じような服装(目立つように白に統一した)を用意し、虫網などは家にあるものを適当に似せて加工した。地元が山のすぐ傍である事もあって、虫網などは何処の家庭にもあったし、それらの道具には困らなかった。

麦藁帽子をかぶって鏡の前に立ってみると、身長に多少の差はあれど遠目には違いなど判らない様に感じた。一種の怪談話という位置付けでもあるから、夜やろうと言う話も出たが、『真っ暗な中で、一人で待っているのか?』と言う一言で却下された。

俺たちは、蛇行する山道に一番手から四番手までじゃんけんで決めた順番で配置し、車が来たらおもむろに横切ってそのまま森の奥に隠れる事にしていた。すれ違うのがやっとの山道なので、他から頂上へ向かう事はできない為に、必ず掛かると考えていた。

 


勿論、相互に連絡なんて付けようがなかった(この頃は携帯もPHSも一般的ではなかった)ので、車の音で判断する以外になかった。俺は二番手で暫く待っていたが、一度だけ甲高い鳥の鳴くような音がした後は、一向に車がやって来ない為にいい加減飽きてきた。

日も傾いたので、止む無く中止して帰る事にし、大声で上に居る奴に声を掛ける。暫くして自転車で降りて来た友人と共に山道を下り、ふもとの駐車場近くまで来たが、一番手の奴(A)が見当たらない。

俺たちは『嫌がっていたからバッくれたんじゃないのか?』等とぶつぶつ言っていたが、日も暮れて辺りは真っ暗になったので、仕方なくそのまま帰宅する事にした。勿論、Aの奴には明日にでも文句を言うつもりだった。

だが、その夜、Aの母親から『まだ帰っていないのだが・・・』という焦った口調で電話が掛かってきた。当然、他の家の連中も大騒ぎとなった。

俺は親にどやし付けられながら事の次第を話し、何発か殴られる事になった上に、警察でも三人そろって説教された。警察沙汰にまで発展した事で、『俺たちは警察に捕まるのではないか』という恐怖がじわじわと襲う。

Aの心配もあったが、自分達が何か取り返しの付かない事をしたという気持ちで押し潰されそうだった。警察が何日も捜査をするが、結局Aは見つからなかった。

 


この山自体には危険な動物は居ないが、夏とは言え夜は寒い。又、谷間や亀裂などもあり、地元の人間でも近づかない場所もある。

山中で迷子になるという事は、地元の慣れた人間でも命の危険がある。あの日から何日か経って、俺は一人でふもとの駐車場に居た。

俺たちは山への立ち入りを禁止にされたので、ふもとでAを待つ以外になかった。その時、声を掛けられるその声の主は中年の男で、顔に絆創膏を貼っていた事が印象に残っている。

彼は、白い服を着ていた俺を誰かと間違ったようで、振り向いた俺をまじまじと見て強張った表情を緩めた。彼は、あの日の山道で白い服の男の子を見たという。

俺がその男の子かと思って声を掛けてきたらしい。俺は心臓が跳ね上がる気がした。

この人は、Aのことを知っているのだろうか?でも、この男の雰囲気は何と言うか・・・嫌な感じだった。説明は付かないが、何となく本当の事を話す気にはなれなかった記憶がある。

だから、俺は『この時期になると、この山で死んだ子供が時折姿を見せる事もあるようですよ』と嘘を付く。『別に悪さはしないといわれていますが・・・』我ながら何でこんなにスラスラ言葉が出るのか不思議だ男は俺を凝視するように見つめると、俺があの日山道に居たかどうかを確認してくるが、俺が嘘をつくとあの日見た事を話してくれた「そうなのか・・・・・。

白い子供が泣きながら逃げるのが見えたんだが、その後を黒いボロボロの服を着た奴が真っ黒い網みたいな物を持って追いかけていったんだ。ワシは、思わずブレーキを踏んだんだが、あっという間に森の中に消えてしまってな。

そうか、幽霊だったのか。」その男は呟く様に言った。

俺は逆に震えだした。化け物が居たというのか?俺は男の話も耳に入らずガタガタと震えだす。

男は、『あの山には入らない方が良いな』とだけ言い残し、近くに止めてあったごつい4WDに乗って去っていった。俺は仲間に電話すると、男の話を伝える。

しかし、そんな話を誰が信じるというのだろうか?警察でも見つけられないのは、お化けがAを攫ったからだとでも言うつもりか?そんな言葉で、俺は真相に触れたと感じた気持ちが急速に萎んでしまった。だから、その話は俺達だけの秘密だったし、二度とあの山で悪戯をする気は無かった。

警察も10日ほどで捜索を打ち切った。俺達は、何度か内緒で山に入って山道周辺を探すが、結局Aの痕跡は見つからなかった。

 


あれ以来、あの山には化け物が出て子供を攫うという話が何時の頃からか広まったらしい。今でも、時折思う時がある。

呂律の回らない口調で友人が言う。『あの時、じゃんけんで俺が一番手だったんだが、初めで失敗すると格好悪いから二番手に代えてもらった。

俺が、あのまま一番手だったら、Aはきっと生きていたと思う。』そう言いながら、友人は酒を呷った。

『あいつの言う事を聞いて、違う場所でやっておけば、化け物なんかに・・・・』その後、テレビでは何人かの遺骨と遺体を幾つかの場所で発掘したという続報が流れていた。オレは今でも、殺人事件のニュースを見ると、友人の後悔で憔悴した表情を思い浮かべて、憂鬱になる。