昔から何故か変な相談をよく受けた。

その日も、友達のお母さんから、
最近知り合いの子供がちょっとおかしいという相談を受けた。

相談というか、愚痴というか。

世間話みたいなもんだろうか。


その子供が、
何もない壁に向かってずっと話しかけているとか、
行ったこともない場所の話をするとか、
そういった類の話だった。

子供らしい、見えないお友達がいるんだろうと、
笑い話として話していたが、表情は優れなかった。


妙に気になって、詳しく聞いてみると、
不自然に話を終わらせようとしてくる。

が、どうやらお母さんも気になることがあるらしく、
ポツリポツリと、断片的ではあるが、話してくれた。

最初は子供のよくある妄想と思っていたが、
あまりにも子供の変化が急激過ぎて戸惑っている。

幼稚園から帰ると、
庭の隅にうずくまって延々と壁に話しかけている。

それに、その友人夫婦の仲も
なにやらギクシャクしている様子、
とのこと。

目を閉じて、イメージしてみる。

真っ暗な中、
ふわふわと揺れる白い光のイメージ。

それはだんだん近付いてきて、
やがて意味のありそうな形へと変化する。

最初は犬に見えたが、どうやら違う。

「狐?」

そう呟いた瞬間に、
イメージの白狐は歯をむきだして眼前に迫ってきた。

驚いて目を開ける。

友母「狐?」

私「はい。多分、ですけど。
でも生きてる狐じゃないような。
パッと浮かんだイメージですが、
神社の隅の祠に置いてあるような、
陶器の白い狐みたいな…」

友母の顔色が変わったのが見えた。

友母「その子供が宝物って言って見せてくれたことがあるの、狐の置物…」

私「多分、それが原因です」

友母「それを捨てれば、良くなるの?」

私「男の子と、その狐のイメージが、かなり重なって見えました。
捨てたら逆に危ないかも」

友母「わかった。
今度そのことも話してみるね」

その日の話はそれくらいで終わりました。

後日

友母「あの狐の置物の話。聞けたよ」

友母の話によると、
子供が宝物にしている狐の置物は、
庭の隅に埋まっていたものを、
子供が見つけたものらしい。

友母から置物の話を聞いた母親は、流石に気味が悪くなり、
子供が幼稚園に行っている間に狐の置物を隠したそうだ。

捨てるのは縁起が悪いと感じたのかもしれない。

だが、気が付くと子供は何故か狐の置物を見つけていて、
大事に持ち歩いているという。

絶対に子供の手に届かない場所に隠しても、
絶対に見つけて持ち歩いているというのだ。

子供の話だと、狐の置物が呼んでくれるから、
何処に隠してあってもわかると言っていた。

友母「どうにかならない?」

私「………」

正直、私の手には余ると感じていた。

目を閉じてイメージしても、
もうなんのイメージも湧かない。

完全に拒絶されている。

拒絶されている今が潮時だと感じていた。

これが敵意に変わったら、
対処のしようがない。

私「はっきり言うと、縁を切るくらいしないと、
危ないと思います。
少なくとも、距離は置くべきです」

友母「でも…」

気持ちもわかる。

こんなオカルトじみた話を真に受けて、
リアルの友人関係を破綻させるのも、
逆に頭のおかしい人と思われても仕方ない。

この結末を知るのは、
数年経ってからとなる。

数年後

友母「あの狐の置物の話、覚えてる?」

私「はい。覚えてますよ」

友母「あれからね、本当に怖い話になっちゃって、
私も最近聞いたんだけどね…」

子供は相変わらず壁に向かって話しているし、
庭から出ることすら嫌がり、
引きこもりのようになっていた。

小学校に上がる年だというのにこのままでは、
と、不安も募る。

夫婦仲もほとんど冷め切っていた。

そんなある日、
子供が両親にお願いがあると言ってきた。

そのお願いとは、
子供がいつも佇んでいた庭の片隅を掘るということ。

夫婦は子供と一緒にその場所を掘った。

そこには、石で出来た、
小さな社が埋まっていた。

夫婦が建築業者や、
以前の土地の所有者に話を聞いて見ても、
何にもわからなかった。

だが、社は出てきた。

一緒に一つの狐の置物も掘り出したという。

夫婦は一番驚いたのは、
その掘り出された狐の置物、

子供が大事に持っていた狐の置物と、
どうやら対になるものだということだった。

形も、大きさも同じ。

そして、左右対称。

夫婦は出てきた社を庭の隅に設置し、
近所の神社にお願いして、
お祓いのようなこともしてもらったという。

子供はいつも大事に持っていた狐の置物をその社に置いて、
壁に向かって話しかけることも止み、
今は普通に小学校に通っているという。

友母「これが、その子の写真」

私「あれ?女の子だったんですか?」

友母「そうよ。言ってなかったっけ?」

携帯画面の中で笑う、黄色い帽子の、
赤いランドセルを被った女の子を、
私はジッと見つめた。

嬉しそうに笑う女の子は、
狐のようにニッコリと目を細めて笑っている。

狐のイメージと重なって見えたあの男の子は、
いったい何だったのだろうか。

ひょっとして、
女の子が壁に向かって話しかけていたのは、
狐ではなかった?

私の中では、狐のイメージも、
男の子のイメージも全く消えていない。

社を祀って、
それで本当に解決したのだろうか?

いくつも疑問は浮かんだが、
私は何も言わなかった。

目を閉じてイメージしてみる。

男の子の顔が、
グニャリと歪んで狐のように笑った。