父方の田舎にあるお寺の話

そのお寺に大きな蔵があって、
年に一度、村の檀家衆が集まって
蔵の中の掃除と中にある物を虫干しする日がある


ただ、その蔵には二階があるんだけど、
そこだけは何故か立ち入り禁止になっていた

消防の頃に疑問に思って親に聞いても

「二階は使ってないから」

とかいう答えが返ってくるだけだった

でもって、入っちゃいけないと言われたら
入りたくなるのが消防の悪ガキの常というか、
今まで誰も入ったことのない場所に入るという
前人未到の武勇伝を成し遂げる!
っていうガキの浅はかなノリで
俺と友人たちで侵入を試みることにしたわけだ


決行日は年に一度の蔵掃除の日の正午、
大人たちが昼飯を食べに家に帰って
蔵に誰もいなくなる空白の時間

俺たちはその僅かの時間を狙って
綿密なプランを立てたわけだ

そして、決行日当日

俺らは早めの昼食を済ませて
お寺の裏山に集合した

リュックには懐中電灯とスナック菓子、
水筒にお茶も忘れない

Bのやつは駄菓子屋で買った
忍者刀セットとか持ってきてやがる

まぁ、俺は
トウガラシ水を入れた水鉄砲を持っていったわけだが

そして、正午になり
親たちが蔵から引き上げたのを確認して
蔵に忍び寄る俺たち

和尚がこの時間は本堂で読経するのが日課なのは
すでに調査済みだ

窓からの日が差しているとはいえ、
薄暗い蔵の中を慎重に進む俺たち一行

二階への階段は蔵の奥の右手にあるのは
去年の掃除のときに手伝いと行って
入って調べ済みだ

窓からの明かりもろくに届かない奥まった場所に
その階段はあった

階段の下から二階を見上げてみるも、
真っ暗で何があるのかはわからなかった

俺たちはリュックの中から
各自で用意しておいた懐中電灯を取り出す

これからが本番だ

一番先にリュックから懐中電灯を取り出したCが
二階を照らしてみたが、
子どもの小遣いで買える安物の懐中電灯の明かり程度では
下から照らしたくらいではあまり意味がなかった

全員の準備が整ったところで
いざ、という段階で、問題が発生した

誰も自分が先頭になって行こうとはしなかったのである

蔵に突入前までは皆が

「俺が一番乗りな!」

とか言っておいて、
意気地のないやつらめ

多分、俺も含めて
全員がそう思っていたはずだw

しかし、ここで留まっていては何も始まらないし、
早くしないと昼飯に行った親たちが帰ってくる

そこで俺たちは忍者刀(の玩具)を持ったBを
半ば無理やり先頭に立てて
二階への階段を上っていった

二階に上がると
薄暗い中に日本人形とか雛人形とか鎧兜とかが置いてあった

はっきり言って一階と代わり映えしない物置状態

1階と違うのは置いてある品物が手入れもされずに
埃まみれになっているところだった

最初に上がったBが

「お宝見っけ!」

と真っ先に鎧兜に方に走っていった

俺は

「馬鹿め、それは宝泥棒の目を欺くための囮よ。
真の宝はこの奥にある!」

とか言って馬鹿ガキ全開で
みんなで宝探しを始めた

しばらくすると
Bが鎧兜の置物から兜を取り外して被りだした

ガキのくせに時代劇とか好きなやつだからなぁと
呆れて見ていると、いきなりBが苦しみ始めた

近くにいたCがBに駆け寄って

「大丈夫?」

と声をかけようとしたその瞬間!

ひゅん!と空気を裂くような音が聞こえた

突然のことで何が起こったかわからない俺たちの目の前には、
尻餅をついてBに差し伸べていた右手を左手で押さえているCと、
そのCの前で仁王立ちで玩具の刀を上段に構えるBの姿があった

俺は最初はBがふざけて
Cに玩具の刀で斬りかかっただけだと思ったが、
そのときDが

「やめろ!」

と叫んでBに体当たりを食らわせた

Dの体当たりで吹っ飛ぶB

すぐさま立ち上がったDがCの肩を掴んで立たせようとするが、
Cは腰が抜けてしまったのか立とうとしない

唖然としている俺にDは

「お前も手伝え!」

と声をかけてくる

「あ、ああ」

と気のない返事をしてDたちに近づいたとき、
それに気付いた

Cの足元に溜まっている血溜まりと、
Cが左手で押さえている右手から滴る血流を

信じられないことに、
CはBに斬られていた

それも、Bが手にしている駄菓子屋で買った
ビニール製の玩具の刀で

俺よりも二人の近くにいたDは
それに気がついてCを助けるために
咄嗟にBに体当たりを食らわせていたのだった

とりあえずこの場は逃げなきゃと、Cに

「おい、立てよ!」

と声をかけるが、
Cは呆然とした表情で右手を押さえたまま立とうとしない

よく見ると血溜まり以外にも
Cの座っているところに水溜りができていた

大きななりをして小心者のCは
Bに斬られたことですでに放心していたようだった

俺はDと顔を見合わせた

Cは「関取」というあだ名で呼ばれるくらいの大柄な体格で、
俺たち二人ではとてもCを引っ張ってはいけない

かといって、
Cを置いて俺たち二人だけで逃げることもできない

DがCにビンタを食らわせるが、
Cは正気に戻る様子もない

俺たちが顔を見合わせている間に
Dに吹っ飛ばされたBが
地の底から響いてくるようなうめき声を上げながら
立ち上がろうとしていた

やばい、マジやばい、
あれはBの顔じゃないよ

起き上がったBの顔は怒りに歪み、
その口からは恐ろしいうめき声が流れ出ている

狂気をたたえたその目が俺たちの姿をとらえて、
Bはゆっくりと俺たちの方に向かってきた

その手に玩具の刀を携えて

もうだめだ、
Cを連れては逃げられないと思った俺は
覚悟を決めてDに目配せした

大柄なCを盾にして迫り来るBと対峙する俺とD

ひどいとか言うな、
マジで怖かったんだよw

ゆっくりと摺り足で近づいてくるB

俺たちの手前で歩みを止めて
地獄の底から響くような咆哮をあげて
持っていた玩具の刀を大上段に振りかぶる

その一瞬がチャンスだった

俺とDは一瞬、
目配せをし合って同時にある言葉を口にした

恐ろしい滅びの言葉を

「バ○ス!」

そう叫ぶと同時に
俺は隠し持っていたトウガラシ水入りの水鉄砲を
Bの顔面めがけて撃ち出した

狙い違わず
Bの顔面を直撃するトウガラシ水

玩具の刀を取り落とし
顔を押さえてうずくまるB

しかし、Cは放心したまま
いまだに動こうとはしない

そのとき、階下から物音がした

「誰かいるのか!」

と言いながら
誰かが階段を駆け上がってくる

本堂で読経をしていた和尚だった

二階に上がってきた和尚は俺たちの様子を見て
すぐに何が起こったかを理解したようだった

「鎧に触ったのか、この馬鹿者どもめ!」

と怒鳴られた

「お前たちは下に降りておれ!」

と言うも、

「Cが動かないんです」

とD

そして座り込んだままのCを見て

「喝っっ!」

と気合いを入れた

和尚に喝を入れられて正気に返ったC

和尚は

「Bはわしに任せてE(和尚の息子さん)を呼んでこい」

と言って俺たちを追い払った

その後のことはよくわからない

Eさんを呼びに行って、
そのあと昼食から戻ってきた親たちに死ぬほど怒られて殴られた後で
本堂で正座させられて待っていると
和尚とEさんに担がれたBが戻ってきた

戻ってきたBとともに和尚からお払い?を受けて
夕方近くまでお説教された

Cの怪我は痕が残るけれども
後遺症は残らなかった

Bは鎧を触り始めた以降の記憶がなかったらしい

お説教のときに、
和尚から蔵の二階の話を聞いた

蔵の二階には代々寺に持ち込まれた
いわゆる曰く付きの品々が収められていたらしい

Bが触っていた鎧は
その中でも特に危険なものだったらしいとのこと

なんでも、Bが兜を取るのに
貼ってあったお札を破ってしまったのが
騒動の原因らしい