俺の大叔父、祖父の弟の話なんだが、
興味深かったから話したい。

80年~90年ぐらい昔の話かな?

祖父の家は農家で、
大叔父は五男で末弟だった。


聞く話によると、
農家の五男あたりは穀潰しで
ろくな扱いを受けていなかったと言ってた。

ただ大叔父は他の兄弟と比べて格段に頭が良く、
当時の小学校の先生からも褒められて、
憲兵学校?みたいな所に受験したらしい。


家族は受かるはずも無いと思っていたらしいが、
なんと合格。

憲兵となった。

当時にしては破格の給料だったが、
大叔父は極僅かな金しか実家に贈らなかったと。

祖父は

「あんだけ邪険にしていたからしょうがない」

と言っていた。

んで、大叔父の話は第二次世界大戦の時かな。

詳しいことは話したがらなかったが、
色々と酷い尋問をしたことがあると言っていた。

当時、憲兵は『鬼』と呼ばれて相当嫌われていたらしい。

唯一大叔父が酔っている時に教えてくれた尋問は、

『絶対に眠らせない』

というもの。

対象を椅子に縛り付けて常にビンタし続ける、
というのだった。

いつも優しい大叔父からは到底考えられなかった。

だけどとても悲しそうに話していたのは覚えている。

そしてある日、
反逆者?の銃殺に携わることになったらしい。
(詳しくは教えてくれなかった)

流石に人を殺すのには抵抗があって、
泣きながら上官に

「自分はできません」

と許しを請うたと言っていた。

当時上官の命令の逆らうのは有り得ないらしく、
顔の形が変わるまでぶん殴られたと。

実際鼻の形はちょっとおかしかったし、
顔に傷がたくさんあった。

結局大叔父は腑抜けの農民として蔑まれ、
処刑は大叔父の友達が務めることとなった。

その友達は大叔父と同じく貧民出身で仲が良かったが、
家族の期待を一身に受けて、
家族の稼ぎ頭となっている人だったと。

当然断れるはずもなく、
処刑をこなした。

だけど、人を殺したことで
少しずつおかしくなっていったと言ってた。

戦争末期、
大叔父は雑用ばかりの役たたずとして扱われ、
その友達は狂人とされていたんだと。

戦争が終わった後、
大叔父は裁判所に勤め始めたんだと。
(憲兵は法律の知識が豊富)

俺は

「公職追放例は?」

と聞いたが、

「そんなもん金でなんとでもなる」

って言ってた。

そんなこんなで裕福に過ごしていたら、
ある日例の友達の死んだのを知ったと。

ドブ板長屋で死んでいたらしい。

大叔父も色々と負い目を感じていたらしく、
多額の香典を包んだとは言っていた。

だけど葬式の日から例の友達が夢に出てくる。

「お前のせいで」

とずーっと恨み言を言ったあと消えるんだと。

いくら許しを請うても毎日出てくる。

そのうち大叔父は利き腕の右腕を病んだ。

いくら治療しても治らず、
結局右腕は腐れ落ちて、
二の腕から切断した。

けど、
その切った腕の骨を持って例の友達の墓を参ると、
夢には出てこなくなったと。

これはずっと昔の元旦に、
片腕の無い大叔父に聞いた話。

もしかしたら作り話かもしれない。

だけど、
大叔父が憲兵だったのも、
片腕がないのも事実ではある。

大叔父は

「あいつは優しかったから片腕で許してくれたんやろ」

と言っている。