昔、宅配業をしていた時の話だが、
あるマンションに不思議なお客さんがいた。

まずはマンションの構造を説明したいと思う。


おそらく築20年前後の新しくもなく古くもない建物。

11階建てで、
1階は住民と業者の駐車場。

2階~11階は1号室から12号室まであり、
両サイドにエレベーターと階段がついている。

オートロックは無い。

そのお客さんは6階の8号室に住んでいる。
(608号室)


配達は週に2、3回で、
時間は11:00~20:00の間。

特に決まった時間に行っているわけではなかった。

1階の業者用駐車場に車を停めて、
エレベーターで6階へ。

エレベーター内には半円型の監視カメラがついている。

少し広いエレベーターホールがあり、
601号室のほうから歩いて608号室へ向かう。

すると606号室を通り過ぎた辺りで、
608号室のお客さんが外に出てくる。

「いつも重たいのにわるいねぇ」

みたいな感じで…

始めは偶然か?位にしか思っていなかったが、
毎回必ず外に出てくる。

606号室辺りで…

ニコニコしているのだが、
無性に寒気がして鳥肌が立つ。

玄関のドアは通路に面しているわけではなく、
1メートルくらい奥まった所に付いている。

ドアを開けても通路が塞がらない、
と想像してもらえばわかるかな?

なので、ドアの覗き窓から通路は見えないと思う。

どうしても納得できなかったので色々試してみた。

反対側のエレベーターから行ってみる。
→610号室の辺りで出てきた。

エレベーターの監視カメラで見られているのか?
それなら階段で行ってみる。
→結果は同じ

足音か?
それなら足音をたてないように…
→結果は同じ

エレベーターホールからしばらく監視してみるが、
一向に出てこなかったし、
708号室(真上の階)から下を覗いてみたが、
出てくる事はなかった。

配達時間がランダムなので、
家事中やトイレ、寝ている事だってあると思うが、
俺は608号室のチャイムを押したことは無かったと思う。