おい、ほふく前進ババアって見たことあるか?

部活後に先輩が唐突に聞いてきた。

その言葉の響きに、
みな思わず爆笑してしまった。
彼は怖い話が大好きで、
寮内バカメンバーもその影響を受けてしまったほどだ。

今日は、その話をしようと思う。

彼は、怖い話とバイクが大好きな、
強面ガチムチな人だった。

そんな彼が、いつものように
趣味のナイトツーリングをしていたときに起きた話だ。


大学から30分ほどバイクで走ったところに、
バイクで流すのに気持ちのよい山道があった。

深夜は対向車もほとんど無く、
民家もないので、
気がねなくバイクで楽しめるところであった。

彼が、いつものように温泉街を抜けて、
その山道で遊んでいたときのこと。

カワサキのでっかいバイクで、
レーサーのようにコーナーを駆け抜けていたとき、
バックミラーに白いモノが映っているのに気がついた。

だれか来よったな・・・負けへんで!

彼は、アクセルをひねりスピードを上げた。

しかし、バイクのライトらしきものは、
ミラーにどんどん大きくなってくる。

くそ!早いわ!

次第に、その光が近づいてきた。

は?なんやこれは・・・。

チラチラとしか見ることの出来ないミラーに、
一瞬人の姿がみえた。

信じられないものがいた。

白いもやもや状の、老婆だった。

それが、ほふく前進のかっこうで、
両手をがしゃがしゃしながら追ってきてるのだ。

あかん!でよったわ!

無我夢中でバイクを飛ばす。

でも、老婆の姿はいっこうに消えない。

半泣きの状態でいるところに、
急にドン!とリアシートに何かがのっかった。

先輩が反射的にパニックブレーキをかけたところ、
ぐちゃ、と背中に肉のようなものが当たる感触がしたそうだ。

そして、止まって我に返ると、
老婆のすがたはどこにもなかった・・・。

ははは!先輩~
今度の話はあまりこわくなかったスねw

それ、よくある話ちゃいますん?w

あ、時間なんでもう帰ります。

お先に失礼しま~す。

みんな、ゾロゾロと帰りはじめた。

いつもなら、
そういう話をした後にドヤ顔する先輩が、
ひとり悲しそうに立っていたのが忘れられない。

以上です。

ちなみにその先輩は、いまも元気です。