『遠野物語』に登場する霊峰・早池峰山の主は女神だが、
実質お山を取り仕切っているのは怪物だという。

んで、この怪物というのが面白い奴で、
顔が三つあり、一本足のデカい怪物、
通称『三面大黒』なんだそうだ。


個人的にはこいつもヤマノケも、
イッポンダタラの類ではないかと思っている。

昔、遠野周辺では金山が非常に賑わっていて、
そこで産出された金は、
奥州藤原氏の建てた中尊寺金色堂にも使われたらしい。

北上山地はとにかく鉱物資源が豊富で、
北上山地を越えれば
日本有数の鉄鉱山である釜石鉱山もある。





この釜石鉱山では餅鉄という非常に良質な鉄が採れ、
日本初の反射炉による近代製鉄もここで行われた。

で、このイッポンダタラという化け物だが、
これは元々山師だったらしい。

コイツが一つ目なのは、
長年熱く焼けた鉄を見るうちに、
片目が潰れたからだという。

コイツが一本足なのは、
鉄に風を送るふいごを踏み続けて、
片足が腐ってしまったからだという。

まぁコイツが件の話のように、
人に取り憑くかは知らんし、
コイツが製鉄に携わる山師だったと言う話も、
元々そういう異様な姿だったのに、
後から人々が理由をつけただけかもしれん。

ちなみに、
コイツは今も全国に居て、
最近でも、
田んぼに残った足跡が発見されて、
話題になったりしてるらしい。

遠野物語によると、
この主とやらは人のモチや酒を勝手に飲み食いするだけで、
特に御利益みたいなもんはない。

で、この怪物の話は、
わが町にもよく似たようなのが伝わっている。

わが町の伝承によると、
この怪物は頭のてっぺんに口があるそうで、
正体は山姥だという。

ある夜、
ある寺の和尚が囲炉裏でモチを焼いてると、
こいつが来て片っ端からモチを食ってしまった。

その怪物はそれから毎夜毎夜現れるようになり、
勝手にモチを食うわ恐ろしいやらでかなわない。

そこで和尚が一計を案じて、
白いゴマ石をモチみたいに囲炉裏で焼き、
徳利には酒の代わりに油を入れておいた。

んで、その日もこの主とやらが来て、
ゴマ石をモチだと思って
頭の口から食ってしまった。

和尚がすかさず酒を薦めると、
口の中で油が発火し、
この化け物は悲鳴を上げて寺を飛び出していった。

しかし、
内臓を悉く焼かれたこの化け物も巣には帰りつけず、
ついに道端で力尽きた。

で、天日に炙られてこの化け物の死体が腐敗し、
物凄い異臭を放つようになった。

で、ケガレを嫌う早池峰の主が、
洪水を起こして
この化け物の死体を押し流してしまった。

この洪水は麓の町をも綺麗さっぱり洗い流し、
化け物の死体もバラバラになって
どこかへ流れていった。

この洪水の時、
荒れ狂う泥水の中を、
白いお髭の老人が流される家屋の上に泰然と座り、
流されていったという。

んで、後に

「この白い髭の老人はここらの神様であろう」

といって、それ以来、
北上川の洪水を白髭水と呼ぶようになった。