以前住んでたアパートに、
当時酔っ払って深夜帰りついた。

すると、狭い玄関に女物のサンダルが揃えて置いてあった。

まったく身に覚えが無い。


手にとって良く見ると、
何か海岸に打ち上げられたようなボロボロのサンダルだった。

いっぺんで酔いがさめた。

ここから先はちょっと取り留めの無い話になるのだが、
暇な人だけ読んで欲しい。





部屋が荒らされた形跡は無かった。

そうなると当然、
合鍵を持っている前の住人の仕業かなと思うよね。

で、不動産屋に鍵を変えてくれとクレームをつけに行った。

大家の許可がないと駄目だと言うので、
近所に住む大家へ直談判。

そこで前の住人のことも聞き出した。

やっぱり女性らしい。

三十代で、
半年前に病気になり、
地元に帰ったとのこと。

じゃあ誰が勝手に入り込んだのか?

不安なのでさらに聞くと、
身元保証人という人物が、
その女性が不在の間ずっと家賃を振り込んでいたそうだ。

それ以上のことは分からなかったし、
まあ鍵を変えることに大家が承諾したので、
話はそこで終わった。

それからしばらくして、
彼女がアパートに泊まりにきた。

その夜ことだ。

彼女の悲鳴で目がさめた。

枕もとにガリガリにやつれた女が立ち、
自分たちをじっと覗き込んでいたと言う。

彼女と目が合うと、
すぅーと押入れの方に姿を消したそうだ。

彼女はひどく怯え、
ずっと震えていた。

絶対に夢じゃないと言い残し、
朝早くに帰っていった。

僕は越してきて一ヶ月になっていたが、
サンダルの件以外不思議なことは何も無い。

でも、霊感があるらしい彼女の言葉はずっと気になった。

ある日仕事から帰ると、
アパートの物置に鍵がかかってないことに気づいた。

中にはペンキの缶や箒、
脚立などが置いてある。

部屋の押し入れに何かあるのかなと思っていた僕は、
脚立を拝借して天袋を見てみることにした。

マグライトを使ってあたりを照らすが、
自分のもの以外何も無い。

そうこうするうち、
天袋の羽目板が目に付いた。

天井裏か。

僕は羽目板を外し頭を突っ込んだ。

僕の住むアパートは鉄筋の三階建てで、
僕は二階に間借りしていた。

天井と階上の床は、
隙間が50センチといったところ。

電気の配線が見えるくらいで何も無いなと思っていると、
あやうく脚立から落ちるところだった。

ちょうど対角線の方向、
三メートルくらい先に、
人形が置いてあった。

「うわぁ~何だよあれ、気味悪いなぁ」

独り言を言いつつ、
自分を励ましながらもう一度覗いてみた。

かなり古い人形、
赤ちゃん人形?

等身大のマネキンみたいなやつ。

足を広げて座ってるけど、
誰かが置いていったのか?

ここからだととても手は届かない。

どうやって天井裏に入ったんだろう?

いったい何のつもりで?

いろんなことを想像したが、
結局どうすることもできず、
僕は脚立を返した。

それからというもの、
夜部屋で横になっていると、
自然と天井の隅に目が行く。

以前の住人が病死して、
あの人形に思いを残してやって来たのか。

そんなことを考えると、
部屋を暗くして眠れなくなった。

サンダルも捨てたし、
あの人形も捨ててしまえ。

僕はバイト先の知り合いから、
高枝ばさみを借りることにした。

通販の話をしていて、
たまたま聞きつけたのだ。

いよいよ決行の日。

昼頃に友人を呼び、
意を決して天井裏に頭を突っ込んだ。

人形は以前と同じ場所にあった。

ゆっくりと高枝はさみを中に入れ、
慎重にそれを伸ばす。

レバーをつかんで、
足首のあたりを挟もうとすると、
そいつはごろんと横に倒れた。

まるではさみを避けるかのように。

僕はうわっと声を上げ、
後頭部を天井板にしたたかぶつけた。

友人が体を支えてくれたおかげで
脚立から落ちずにすんだが、
卒倒するとこだった。

もう止めよう、もういい。

僕はしばらくパニック状態だった。

そんな僕におかまいなく、
友人は自分も見てみると言い出した。

制止する僕を振り切って、
友人は脚立を上った。

僕は声をかけながら、
友人の両足を抱くようにして支えた。

すぐに両足が痙攣するみたいに震えだした。

「おいっ、何がいた?大丈夫か?」

友人はガクガクしながら頭を引っ込め、
脚立を降りてきた。

「あれ人形じゃねえぞ」

友人は真っ青な顔でそう言った。

「本物の赤ん坊だ」

その後、
友人は激しい頭痛に見舞われ帰っていった。

僕は送っていくと言って、
そのまま友人宅へ半月居候した。