転勤して家を1年ほど空けていた間に、
何かが棲みついたのでしょうか。

家に戻ってから、
なんとなく部屋の空気が違う気がしました。
リビングのドアがガラス越しにフラッシュを炊いたように光ったり、
誰もいない部屋から壁を叩かれる音がしたりと、
細かいヘンなことが続いていたため、
魔除の意味もこめて犬を飼うことにしました。

階下のリビングに犬を置いたせいか、
一階では何も起こらなくなりました。

ところが、この犬、
玄関から奥の階段付近には絶対行きません。

無理に引っ張っていこうとすると、
ものすごく抵抗するんです。


何度連れ出しても、餌で釣っても、
両足を突っ張って動きません。

以前飼っていた犬は、
仔犬でも唸ったりしていたので安心でしたが、

今回の犬は臆病なのか、
幽霊駆除というより幽霊探知機程度です。

犬の抵抗を証明するように、
二階で怪事が頻発するようになりましたが、
大した怖いことが起きなかったので、

「バケモノも引越しするみたいよー」

などと呑気に友人と話したりしていました。

ところがある朝、
冗談でなく本当に気持ち悪いと思うことが起きました。

階段の下から寝起きの悪い兄の名前(仮名:トオル)を呼びました。

「トオルー、トオル!!」

一回目には聞き取れなかった声も、
二回目にははっきりと、
私の声の後にこだまするような、
被ってくるような声で家族を呼んでいるのです。

「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」

変だなと思ったのと同時に、
兄が返事をしたので起こすのを止めました。

兄の分のコーヒーを入れながら、
今の声が誰かに似ていたことに気付きました。

「あ…」

そうです、それは私の声でした。

リビングに下りてきた兄にこのことを話すと、

「トオル、としか聞こえなかった」

と言うのです。

「お兄ちゃん」

という声は少し遠く、
二階から聞こえた気がしてぞっとしましたが、

「私の気のせい、空耳」

と思うことにしました。

ところがその空耳、私の耳だけでなく、
家族にも次々聞こえるようになりました。

あるときは勝手口からだったり、
あるときは玄関からだったり。

二人同時に聞こえる時もあれば、
居合せた家族全員が聞こえたりもしました。

声はその場にいない家族の声色を真似るように、
「おーい」だったり、
家族の名前を呼んだりするのです。

なんか昔話の『あまのじゃく』に似てませんか?