うちの実家の墓地には一人ずつ、
あるいは夫婦単位で墓があって、ズラッと並んでる。

その中に一つだけ、
墓石が中途半端で、上の柱状の石がなく、
下の基礎部分っぽい歪な石しかない墓がある。
名前も掘られてない。

幼いころから不思議だったけど、
お墓の事を根掘り葉掘り聞くのも気が引けて、
家族の誰にも聞かずに変だなーって思ってた。

多分お墓が台風とかで壊れちゃってそのままなのかな、
可哀相だなって子供心に不憫に思って、
墓参りの度に、他のお墓は一本ずつの線香を2本あげたり、
お供えのお菓子を2個置いたり、

そういう小さいえこひいきをしていた。


小学校高学年の時、
私はでかい病気をして、
全身麻酔の手術をした。

本人は麻酔で寝てるから知らなかったが、
予定より大変で何時間もオーバーしたらしく、
父ちゃん母ちゃんは、
このまま私が死ぬかもしれんと思って気が狂いそうだったらしい。

どおりで目覚めた瞬間、
母ちゃんが号泣したはずだ。

私は手術中、
夢をずーっと見てた。

断片的にしか覚えてないけど、
すごい長い夢で、
ぐにゃぐにゃの道路を必死で走るとか、
どんどん伸びてくる木の根っこみたいのから泣きながら逃げるとか、
結構怖かった気がする。

けど、ぱたっとそれが止んで、
いつの間にか、
『お兄ちゃん』と遊ぶ夢に変わっていた。

まったく知らない子。

普通なら誰だよって思うとこだけど、
夢だからか『お兄ちゃん』としか思わなくて、
なんの違和感もなく遊んでもらってた。

コケたらからかわれたりとかもされて、
随分親しく遊んでた。

ほんとに兄妹なんじゃないかって思うほど、
仲良しな感じだった。

このお兄ちゃん、
何故か裾の短い着物姿だったんだけど、
ほんとに何の違和感もなかった。

目が覚めてから夢の話をしたら、家族は

「ご先祖の誰かが助けてくれたんだろう」

って言ってたから、
そんなもんなんだろうとすんなり納得してた。

それというのも、
私は本当は上に一人兄姉がいたはずで、
母ちゃんが流産してしまったから生まれなかったのだ、
と聞いていたせいだ。

あんまり親しい感じの『お兄ちゃん』だったから、
きっとあれは生まれられなかった私の兄ちゃんなのだろうと納得したわけだ。

そんでちょぴっと泣いた。

兄ちゃん欲しかったからさ。

で、それとは関係なく、
一番最初に書いた半端なお墓に対するえこひいきを数年続けたある日、
えこひいきが母ちゃんにバレた。

10年弱気付かれないほどの、
そのくらい小っちゃいえこひいきだったんだけど、
ご先祖は平等に敬え!系の説教を食らうに違いない、
と私はビビった。

けど母ちゃんは

「その人はあんたの恩人かもしれないからねえ」

って笑った。

「どゆこと?この人誰?」

って聞いたら、
母ちゃんビックリ。

「あんた知らなかったの?!
じゃあなんであんな夢見たの?!」

母ちゃん曰く、
そのお墓はじいちゃんの兄弟の一人のお墓だそうな。

小さい頃に池に落ちて亡くなったらしく、
子供だからか中途半端なお墓にしてあるらしい。

で、家族皆、
その話は誰かがとっくに私にしてると思ってたらしく、
だからこそそのイメージが私の中にあって、
それを元に手術中にそんな夢を見たんだ、
と家族は思っていたらしい。

私は手術時点ではまったくもって知らなかった。

知らずに夢に見ていた。

「生まれずに死んじゃった兄ちゃんなんだと思ってた」

って正直に言ったら、
母ちゃんは涙目になって(今思うと母ちゃんゴメン、古傷抉ってたな…)

「そんなはずはない」

って。

母ちゃんが流産した子は、
人間の形にさえなってない初めの段階で流れてしまったらしい。

当然性別も不明で、
『お兄ちゃん』にはなりえないと思う。

多分、小さすぎて人間としての魂とかも備わってなかったろうって。
(このへんは母ちゃんが自分に言い聞かせたことかもしれんが)

あと、着物を着てるなんて変って。

確かに。

何故気付かなかった自分。

というわけで、
手術中の私と遊んでくれたのは
大叔父さんにあたる人だった説が濃厚。

正直に、お墓が中途半端なのが可哀相で、
手術以前からずっとえこひいきしてたって話した。

「だから助けてくれたのかもね」

って。

確かめる方法はないけど。

大叔父さんからしたら、
毎回お菓子を大目にくれる当時の私は、
お気に入りの妹分みたいな感じだったのかもしれない。

超楽しく遊んでもらったし。

私が実の兄だと思い込むほどには可愛がってもらった。

今でもちょっとお菓子を大目に置いている。

しかし蓋を開ければ自分より随分年上だったわけで、
お酒とかの方がいいんだろうかとちょっと悩んでいる。

ビスコは口に合うだろうか大叔父さん…。

ふかし芋とかの方が嬉しい世代だろうか。


夢の話だけではなんなので、
もう一つ不思議体験。

ちなみにこの話のさらに数年後の高校時代、
いじめにあって死にたくなって、
ばーちゃんのお墓の前で

「頑張るけど耐えきれなくてそっち行くことになったら許してくれ」

って祈ってたら、
後ろから肩をぽんって叩かれたこともある。

振り返ったら、
一緒に来た家族は手の届かない遠くにいて、
じゃあ誰に肩たたかれたんだと不可解。

でも嫌な気はしなかったので、
あれはばーちゃんの励ましだったのだと思っておくことにしてる。

この度自分も母になったので書きたくなった。

ご先祖って大事ね。