おれのじいちゃんは、
3ヶ月に1回は山に登る山好き。


それは11月、
東北のほうの冬山、名山といわれる有名な山だ。
ベテランのじいちゃんも、
登り始めるときは強い緊張感に襲われる。


その時も、
かなりの緊張とワクワクで気分が高揚していた。


朝の4時に登り始め、お昼に登頂する。
そして、午後4時には下山する日程を組んでいた。


朝4時の冬山はかなりひんやりとして静かで、
じいちゃんは朝の山が一番好きだった。


その朝の冬山を満喫しながら登っていると、
担架をもった山岳救助隊4人とすれ違った。


その救助隊は担架に何も乗せていなかったが、
さも何かが乗っているかのように4人で担架を担いでいた。


じいちゃんは訓練か何かかと思い、
「ごくろうさん」
と一言かけてすれ違った。


その救助隊たちも頭を下げてすれ違っていった。


その後、なにごともなく無事に頂上についたが、
予定を2時間ほどオーバーしていることにあせりを感じ、
急いで下山を始めた。


中腹辺りにさしかかったころ、
日は落ち始め暗くなりだした。


その時だいぶ遠くから、
オレンジ色のものが登ってくるのが見えた。


「ん…救助隊か?」


なにか事故でもあったのか…

そういえば、朝も救助隊にすれ違ったな。


思い返してみると朝すれ違ったとき、
雰囲気がおかしかったな。


たいてい救助隊は、
登山者と軽い会話をすることが習慣になっているが、
4人はただうなずくだけだった。


しかもその4人は、
朝すれ違った救助隊と同じように見えた。


少し無気味になったじいちゃんは、
近づいてくる救助隊に恐怖を感じ始めた。


じいちゃんは、
救助隊に思い切って話し掛けてみる事にした。


徐々に近づいてくる救助隊。
ふと不審な点に気づいた。
担架に人が乗っている…

ありえない。
担架に人を乗せて山を登ることなど、
どうか考えてもおかしい。


顔が派別できるところまで来ると、
じいちゃんは歩みを止めた。
朝すれ違ったのと同じ救助隊…

担架には明らかに人間が乗っているが、
毛布が巻いてあって直接は見えない。


じいちゃんは意を決して話し掛けようとしたが、
足が震え声も出なかった。


救助隊はじいちゃんの横を平然と通り過ぎて、
頂上へ向かっていった。


そこでじいちゃんは、直感的に感じた。
次は俺か…

あの救助隊が頂上から降りてくるときに、
俺と鉢合わせたら大変な事になる…

いままでにないくらい急いで下山を始めた。


登山は登るよりも下山するほうが危険という基本も忘れて、
ただただ急いだ。


だがいくら登山好きとはいえ、
老いたからだでそんなに早く下山できるわけもなく、
すぐにペースダウンし、
じいちゃんも冷静に考え始めた。


俺の思い込みだ。
そんな話があるはずもない。
訓練で山を上り下りしてるだけだ。


冷静にならないと取り返しのつかない事故になるぞ。


自分にそう言い聞かせ、
ゆっくり下山を始めた。


順調に歩いていると、
後ろに嫌な気配を感じ振り返った。


救助隊だ…
担架を担いで、
後ろを下山してきている。


じいちゃんは意識しないようにして、
平然と彼らをやり過ごす事にした。


だが、近づいてきてるのを考えると、
足が震え今にもちびりそうだった。


救助隊は、
前と同じように何もいわないで、
静かに異様な雰囲気を漂わせながら、
じいちゃんの横を通り過ぎていった。


担架に何か乗っている…

その時じいちゃんは、
はっきりと担架に乗っているものを見た。


じいちゃんは、
それが何なのかを最後まで教えてくれなかった。