ガキの頃、朝起きたら、
火の気がない和室の押入の襖が、
下30cmぐらい焼けていたことがあった。
焼けているというより、
襖の上紙一枚だけが『炙られてめくれてる』というカンジで、
下から古文書みたいな筆文字がのぞいていた。

その家は家を建て替えるあいだ1年間だけ借りていた古い木造家で、
他にも不気味な現象が多々あった。

だいたい家の造り自体が不可解で、
焼けた押入の奥にも隠し戸のような扉があり、
扉を開けると6坪ほどの裏庭。


裏庭には、
ここからしか出入りできないようになっていた。

階段の途中には小さな戸棚があり、
戸棚の奥は窓もドアもない六畳ほどの真っ暗な板の間。

この戸棚は気がつくといつも3、4cm開いていて、
階段を上り下りする足音も昼夜を問わず聞こえた。

階段を昇った真正面にあるトイレは、
1畳ぐらいしかないにも関わらず両側にドアがあり、
どちらからも開かない(鍵がかかっている)ことがしょっちゅう。

勝手に水が流れたり、
ペーパーホルダーがカラカラ鳴ったりとかも日常茶飯事だった。

包丁、ハサミ、カッター、ドライバーなど、
刃物類がしじゅう消えるのも気味悪かった。

うちの家族は引っ越してすぐ異常に気付いたが、
親はあえて仲介屋には何も聞かなかったらしい。

また引っ越すのは金も手間もかかるし(賃料がすごく安かったのだそうだ)、
1年だけのガマンだと思っていたのだと思う。

だから、この家が事故物件だったのかどうかは判らないが、
この家は俺らが引き払ってすぐ取り壊された。

この家に越して半年ぐらい経った頃、
俺は原因不明の高熱を出して1カ月近く寝込んだ。

その時、3日続けて同じ夢を見たんだ。

この家の隣には有名な古い大寺院があったんだけど、
その奥にある大きな薄暗いカンジの池で、
友人とボートに乗ってる夢。

で、池の中央まで来ると、
なぜかオールが動かなくなる。

焦って力任せにオールを引き抜くと、
ずぼっとオールに大量の黒髪がからまってくる……。

俺、学校でこの話をして、
友達と寺の奥までに確認に行った。

でも、池なんかなかったんだ。

だけど……

大人になってから、
俺はたまたま仕事で『江戸の歴史』を調べることになった。

で、古地図を見てみたら、
その寺の敷地内に大きな池が描かれてたんだよ。

俺が調べたところでは、
江戸時代、その寺には大奥で不始末を犯した奥女中が預けられることがあり、
その中にはこの池に身投げした人もいるということだった。

寺と家の関係は判らずじまいなんだけど、
自分的には何らかの関係があったのかなと思ってる。